あるクルーの一日


 いよいよインターハイの日がやってきた。6時54分からのNHKの天気予報によると、南岸に前線が停滞しているため天気ははっきりしないが、風はいい北(陸風)が期待できそうだ。潮は昼頃に満潮である。そういえば昨日の夜は満月だったので潮が速そうだ。

 出艇申告を済ませ、他艇より早めにハーバーを出る。なるほどいつもより潮が引いていて、スロープが滑りやすい。スピンネーカーを張りスタートライン上のコミッティーボートへ向かう。風はかなり周期的に5度〜10度ずつ振れている。ブローが東よりからくる気配がある。スタートラインに到着後コミッティーにセールナンバーを確認してもらい、両タックを走ってみて上りの具合を調べ、ジブシートの位置(印がつけてある)を覚えておく。

 コンパスを取ると風向がちょうど0度であった。リミットマークに近づくと潮流がある気配。早速スポンジを投げてみると明らかに上マークへ向かって流れている。これではスタートで潮に流されてリコールしやすくなるので気をつけなくてはいけない。スタートラインは5度〜10度下有利である。コミッティーボートの示す上マークのコンパス角度は10度、先ほど計った風向は0度、ということは上マーク付近ではスタートラインより東へ10度振れているのかもしれない。5分前がなった。時計を合わせる。スキッパーと作戦を練り、とにかくスタートをうまくしてフレッシュウィンドをつかんで、ポートで岸に突っ込むことにした。

 4分前、時計を再チェックする。スピンポールの格納位置、あかのくみ出し、その他すべての事前チェックを行い、もう一度上りで走りコンパスをとる。風向は5度ということは東へ5度振れたわけで、スタートラインは逆算して0度から5度、下有利で上マ−クに対してほぼ直角となった。下有利のせいか下がすごく込んでいるので、比較的すいているその上から出ることにした。下マーク付近では潮に流されてすでにラインから出ている艇がいる。

 スタート。うまくいった。X旗が上がったがリコールは我々ではない。そのままフレッシュウィンドをつかみトップ集団に入れそうだ。マークする艇は下に2艇、上に1艇いるが、上の1艇の位置が特に良い。風が振れ戻ったところで台本どおりにロールタック、ポートで突っ込む。

 風が弱く、ようやくサイドデッキに座れるくらいなので、スキッパーの視界を妨げないように身を低くする。逆光で下側のテルテールが見にくいので、落とし過ぎないように下側のテルテールを注意して、スキッパーが気が付かないときには、教えよう。

 メインセール、ジブセールともにリーチを引きすぎていないか気をつける。思ったとおり風が東へ振れてきた。ポートタックで突っ込んだのが正解、トップグループで上マークに近づいた。リミットマークよりでスタートした連中は遅れた。

 東へ風が振れ始めたので、ショート気味にタック、スターボードで上マークに近づく。オーバーセーリングをして折角の風の振れを無駄にしたくないからだ。バランスをとるのに余裕があるので、スピンネーカーの準備をはじめる。サイドマークを確認すると、かなり落とし気味のコースになるので、早めにハリヤードを引くように打ち合わせをする。風下側のツイカーのカムを外し、スピンネーカーシートを引き、スピンバックから少しスピンネーカーを出しておく。

 マーク回航。ガイを定位置でクリートしさらに手前に引いてスピンに風が入りやすくする。ハリヤードの上がり具合を確認しポールをセットし、スキッパーからシートをもらう。センターボードを上げる。トップ3艇はお互いに牽制しあい、上り気味に走っていった。我々は潮で風上に流されることを考え、センターを十分に上げ、追っ手気味に走る。スピンネーカーを十分に風上に引き、しかも遠くにゆったりと張ってやる。

 上っていった連中は最初は良かったが、サイドマークに近づくにつれて、ジャイビングするかしないかの真追手になってしまっている。だいぶ追いつくことが出来た。サイドマーク付近で、今まで下していた分、上り気味に走り、スピードを付けて、ブランケットを交わしオーバーラップをとり3位に上がった。

 ジャイビングでは風が強くないので、艇を揺らさずうまくバランスを取りながらブームを返すことに注意する。そして落ち着いてポールを返しセットする。下マークまでは先ほどの失敗に懲りてか、前の2艇はプロパーコースを走っている。我々も上らないように注意するが、ブローが東から来ているので、風が落ちるとブローを拾いにやや上り気味に走りブローをつかまえるとプロパーコースに下すという方法をとる。

 風が少し強くなってきた。上りのレグではフリーにしていたブームバングを利かせ、メインセールのリーチが開き過ぎないようにする。これでコースを一周したわけで、どうにか風のパターンがつかめてきた。

 次の上りのコースをスキッパーと相談する。東よりのブローをつかまえるために、マークを回ってしばらくポートで走ることにした。風がそれほど強くないので、マークギリギリまでスピンネーカーを張っている。この程度の風ではスピンネーカーを降下するのにバランスを心配する必要が無い。

 下マーク回航。マークよりに潮で流されるので、その分もさらに余裕を見て大回り気味にマークに向かい、最後はギリギリでマークを回る。どうにかトラピーズに乗る風になってきた。ジブシートは十分きつくしてリーチをタイトにし、メインセールもバングを緩め、その分目いっぱいにシートを引きリーチをタイトにする。波があまりないので、セールがフラットのほうが上り角度が良くスピードが落ちない。コンパスを見ると1回目の上りより5度東に振れ、風向は10度となった。

 前方から下に振れるブローがいたのでスキッパーにタック用意を伝え、ブローと同時にタック。うまく決まった。このタックでどうやらトップの2艇に追いついた。ブローがなくなったところで再びタック、ポートで突っ込んだ。風が東へ振れているので前回同様ショート気味でタックしマークを狙う。ジャイブしてからスピンネーカーを上げる旨をスキッパーに伝えスピンネーカーの準備をしておく。

 上マーク回航。十分逆ヒールをさせ、一気に回りジャイブ。スピンネーカーを引き出しスキッパーに合図を送り、ハリヤードに合わせてポールをセットする。どうやら2位に上がった。風がどういうわけか北に戻り始めた。すかさずジャイビングをして、ダウンウィンドタッキングを行う。トップ艇は気づかずにそのまま走っている。明らかにジャイブの風だ。そのうちに再び風が元に戻り始めたのでジャイブクオーターで下マークへ向かった。このダウンウィンドタッキングでどうやらトップに出た。ブランケットをかわし2位艇とマークの中間を走ることにする。

 下マーク回航。潮はとまったが大きめに回る。最後ののぼりとなった。2位の艇をマークするために、原則として相手艇がトランサムに見えてからタックすることにする。あまりにマークし過ぎるとすぐに相手がタックするからである。それでいてもタックの応酬が続きフィニッシュラインに近づいた。ブルーフラックが上がっているコミッティーボートを見つけフィニッシュラインを確認する。どうやらリミット側にゴールしたほうが得のようだ。タック、タックで抑えてきたが、最後の方はちょうどブランケットに入る位置でタックし、相手に風下突破されないように気をつける。オーバーセールしないように相手を抑え、確実にリミットマークを狙ってとうとうトップでフィニッシュした。


 次は第2レースだ。休憩している間に風がだいぶ強くなってきた。絶好のコンディションである。潮は満潮を過ぎてどうやら引き始め、上マークからスタートラインへと流れている。クローズホールドを走りチューニングを直す。ブームバングはバランスを取れるようならあまり引かないでメインシートで詰める。オーバーヒールをするようならばバングをギリギリに締め、シートを逃がすようにする。ジブシートも同様に風にあわせブローに合わせ調節をする。コンパス角度を取りスタートラインをチェックする。

 スキッパーと相談の結果、前回良かったので再び東側のコースを狙うことにする。5分前時計を再チェックする。セルフベーラーをあけて水を出し、スピンポールのチェック、スピンハリのロックをチェックする。すべてを確認。向かい潮なのでスタートに出遅れないようにと思ったがうまくいかずで遅れ気味のスタートとなる。

 しまった!風上、風下の両方から抜かれていく。どうしようもないので早めにタックし、しばらくポートタックで逃げる。スターボード艇に気をつけながら3,4回タックを繰り返しているうちに、どうにかフレッシュウィンドをつかめるようになった。どうも最初にスタートがたたってコースを思い通りに引くことが出来ないまま、セカンドグループに落ちる。上マーク付近はスターボード艇の列ができそうなので、ポートタックでマーク付近まで近づき、スターボード艇の隙間をぬって列の中に入り込む。

 上マーク回航。潮でマークに寄せられるのでその分余裕を見て逆ヒール気味に回る。バランスをとりながらアフター外を付け、ポールをセットしハリヤードを引いた。トラピーズに出ながらスピンネーカーをはらませ、スキッパーにコースの目安を教える。潮のせいでいやでも風下に流されるのと、ブローがくると上れないのでセンターボードをおろし気味にし、上れる時にできるだけ上るようにした。明らかに他艇より上っている。やがてサイドマーク付近でブローがきた。コースを落とし猛烈にプレ−ニングをはじめる。先行していた艇の中には、上りきれないでスピンネーカーをおろしている艇もいる。これで一気に追いつきスピードに乗ったまますばやくジャイブ、強引に内側に入る。

 下マークに行くときもサイドマークまでと同様に、チャンスがあるたびに上りブローで落としてスピードと高さをかせぐ。風が強くなってきて再び2,3艇抜き、バランスを取りながらスピンネーカーを降下。下へ流されるのでマークギリギリを狙って下マークを回航。

 風は強くなり安定してきたが、チョッピーな波が出始めた。ジブシートはゆるめでリーダーを前に移動、バングをきつく締めこみメインシートを出し入れして艇をフラットに保つ。乗る位置も後ろにずらしチャンスがあればプレーニングさせる。くれぐれも上りすぎてスピードを落とさないように注意する。センターボードを十分に下ろしメインセールのリーチが逃げることによって生じるリーヘルムを無くす。風が安定してきたのでタックによるスピードロスを無くすために、タックの回数を減らす。こうしてマークに近づく。

 先ほど同様大回りしてマークに近づいたところ、ポートできた艇が内側でタックし先に回ろうとしたが、案の定マークタッチしている。下マークは殆ど追手になるので、ジャイブをしないでスピンネーカーを上げる旨をスキッパーに伝える。バングを少し緩め逆ヒール気味にマーク回航。スキッパーはサイドデッキに座り、バランスを取りながらスピンネーカーをあげる。

 クオーター気味にサーフィングさせながらスピードをつけていく。クルーは中央にスキッパーは風上側のデッキに座り、ブローにいつでも対応できるようにする。潮に乗っているので早く感じる。アフターガイとシートを一緒に引き込むと波に乗りやすい。途中で一度ジャイブし、早めにスピンネーカーを降ろす。

 下マークを3位で回航し、トップ艇を攻撃し始める。細かい風の振れにあわせタックすると、トップ艇は慌てて抑えてくる。しかし、差が縮まったせいもあってあせってタックがうまく決まらず、とうとう抑えるのをあきらめ逆タックで逃げてしまった。

 フィニッシュラインが見えてきた。今度はコミッティー側が少し有利である。トップ艇は早めにタックし、そのままリミットマークへ入るつもりでスターボードタックで向かってきた。トランサムギリギリにかわし、我々は少し間をおいてタック。案の定、潮が災いしてトップ艇はリミットに入りきれず仕方なくタックする。そしてスターボード艇の我々に引っかかり2位に落ちた。快心の攻撃で我々はトップフィニッシュをした。

 ハーバーに着艇後、着艇申告の確認。艇体のトラブルとチューニングのズレを確認しながら解装を行う。明日の風を想像しながら明日のセッティングの準備をしながらハーバーを後にする。


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